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東京地方裁判所 平成5年(ワ)24961号 判決

原告

株式会社ナカノコーポレーション

右代表者代表取締役

米山卓

右訴訟代理人弁護士

鶴田晃三

被告

破産者株式会社

○○工務店破産管財人

上野正彦

被告補助参加人

日本ハウジングローン株式会社

右代表者代表取締役

會田稜三

右訴訟代理人弁護士

神部範生

主文

一  原告が別紙物件目録三記載の建物について別紙商事留置権目録記載の留置権を有することを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用及び被告に生じた費用の各五分の二を原告の負担、同費用の各五分の三を被告の負担とし、補助参加人に生じた費用を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が別紙物件目録一及び二記載の土地並びに同三記載の建物について別紙商事留置権目録記載の留置権を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

(一)  原告は、土木建築の請負等を目的とする株式会社である。

(二)  株式会社○○工務店(以下「破産会社」という)は、平成四年一二月四日午後四時、東京地方裁判所において破産宣告を受け(当庁平成四年(フ)第三六八六号破産事件)、被告がその破産管財人に選任された。

2(本件契約)

原告は、破産会社との間で、平成二年一〇月三一日、同会社を注文者、原告を請負人として、左記のサンステージ蕨新築工事請負契約を締結した、(以下「本件契約」という)。

(一)  工事場所

別紙物件目録一及び二記載の土地

(二)  工期

着手 平成二年一一月二日

完成 平成三年一二月末日(但し、その後平成四年一月二一日に合意により延期)

(三)  代金

七億九三一〇万円

(四)  支払方法

契約時(平成二年一一月)七九三一万円

中間時(平成三年二月)七九三一万円

上棟時(平成三年六月)七九三一万円

上棟三か月後(平成三年九月)七九三一万円

竣工引渡時(平成三年一二月)(但し、その後平成四年一月二一日に合意により変更)四億七五八六万円

(五)  遅延損害金

一日につき未払残額の一〇〇〇分の一の割合

3(完成及び代金の未払並びに商事留置権の行使)

原告は、平成四年一月二一日、本件契約に基づきサンステージ蕨新築工事(別紙物件目録三記載の建物。以下「本件建物」という)を完成させ、破産会社の完了検査を受けた後、同会社に対し、右代金七億九三一〇万円から同会社の支払分である前記契約時及び中間時の各七九三一万円の計一億五八六二万円を控除した残代金六億三四四八万円を請求したが、その支払を受けられなかったことから、本件土地上の本件建物について、商事留置権を行使する旨を告知した。

4(代金減額)

原告は、破産会社との間で、平成四年二月六日、右残代金六億三四四八万円について、六億一二八五万円に減額する旨の合意をした。

5(所有)

別紙物件目録一及び二記載の土地(以下「本件土地」という)及び本件建物は、いずれも被告が管財人として所有している。

6(占有)

原告は、本件土地上の本件建物を占有している。

7(確認の利益)

原告は、東京地方裁判所に対し、平成五年一月一九日、本件土地及び本件建物について、別紙商事留置権目録記載の債権及び留置権(以下「本件留置権」という)を届け出たが、被告は、管財人として本件留置権の成立を争っている。

8(まとめ)

よって、原告は、被告に対し、本件土地及び本件建物について、本件留置権を有していることの確認を求める。

二  被告の本案前の答弁

本件訴訟の目的は、本件留置権に基づく競売の申立てを行うことであるが、仮に、判決によって本件留置権が確認されたとしても、それは口頭弁論終結時の確認であって、その後における右競売の申立て時点ではないから、原告においてあらためて右留置権の存在を証明する必要がある以上、右判決では紛争の解決にはならない。

したがって、本件訴訟の確認の利益は認められない。

三  被告の本案前の答弁に対する原告の主張

管財人は、破産法九三条一項、一九七条一三号により本件留置権を別除権として承認すべきであるにもかかわらず、原告が本件留置権を行使した平成四年一月二一日以降二年半以上が経過してもこれを拒否している。

したがって、本件訴訟の確認の利益があることは明らかである。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)及び(二)の事実は認める。

2  同2の事実は不知。但し、原告が破産会社との間で、本件建物について、請負契約を締結したことは認める。

3  同3の事実は不知。但し、原告が本件土地上に本件建物を完成させたことは認める。

4  同4の事実は不知。

5  同5ないし7の事実は認める。

五  被告及び補助参加人の主張

1  被告の主張

(一) 本件土地及び本件建物が破産財団に帰属し、本件建物につき破産会社名義で所有権保存登記がなされているのであるから、本件土地の占有は、本件建物の所有者たる被告にあるものというべきである。

したがって、原告は、本件土地につき留置権を有しない。

(二) また、補助参加人は、破産会社から、平成元年八月二八日、本件土地について、同月二五日金銭消費貸借同月二八日設定を原因として、浦和地方法務局戸田出張所同月二八日受付第五一二七〇号をもって抵当権設定登記を経由している。

したがって、原告において、本件留置権に基づき競売の申立をしたとしても、本件土地に対する補助参加人の右抵当権は消滅せず、また配当要求は許されないものであるから、留置権の成立範囲は本件建物に限られる。

なお、本件留置権が成立する前に補助参加人の本件土地に対する右抵当権の設定登記が経由されているから、本件建物のために法定地上権等の利用権が成立することはない。

2  補助参加人の主張

(一) 原告は、本件建物を建築する限度でその敷地を使用する権限を有していたにすぎないから、本件土地に対する独立の占有を有していない。

したがって、原告は、本件土地につき留置権を有しない。

(二) 別紙商事留置権目録記載の債権のために留置権が成立し、これによって競売申立てができるのは、本件建物に限られるべきである。

六  被告及び補助参加人の主張に対する原告の反論

本件留置権は、商事留置権であって、原告が占有している本件土地と別紙商事留置権目録記載の債権との牽連関係を必要としないから、本件土地も留置権の対象となる。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因及び被告の本案前の答弁について

1  請求原因中、原告が土木建築の請負等を目的とする株式会社であり、破産会社が平成四年一二月四日午後四時に東京地方裁判所において破産宣告を受け(当庁平成四年(フ)第三六八六号破産事件)、被告がその破産管財人に選任されたこと、原告が破産会社との間で、本件建物について、請負契約を締結したこと、原告が本件土地上に本件建物を完成させたこと、本件建物及び本件土地は、いずれも被告が管財人として所有していること、原告が本件土地上の本件建物を占有していること、原告が東京地方裁判所に対し、平成五年一月一九日、別紙商事留置権目録記載の債権並びに本件土地及び本件建物についての本件留置権を届け出たが、被告が管財人として本件留置権の成立を争っていることは、当事者間に争いがない。

2  しかして、右争いのない事実に加えて、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証、証人石川悳郎の証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一、二、第六号証、第七号証、第一一号証の一、二、第一四号証、同証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  原告は、破産会社との間で、次の内容の本件契約を締結した。

(1) 工事場所 本件土地

(2) 工期

着手 平成二年一一月二日

完成 平成三年一二月末日

(3) 代金 七億九三一〇万円

(4) 支払方法

契約時(平成二年一一月)七九三一万円

中間時(平成三年二月)七九三一万円

上棟時(平成三年六月)七九三一万円

上棟三か月後(平成三年九月)七九三一万円

竣工引渡時(平成三年一二月)四億七五八六万円

(5) 遅延損害金 一日につき未払残額の一〇〇〇分の一の割合

(二)  その後原告は、破産会社との間で、合意により右工事完成時期を平成四年一月二一日に延期し、また竣工引渡時に支払を予定していた四億七五八六万円の支払時期を同年一月二一日に変更した。

(三)  破産会社は、原告に対し、前記契約時及び中間時に各七九三一万円の計一億五八六二万円を支払った。

(四)  原告は、平成四年一月二一日、本件建物を完成させ、破産会社の完了検査を受けた。

(五)  原告が破産会社に対し、右支払分計一億五八六二万円を控除した残代金六億三四四八万円の支払を請求したが、その支払を受けられなかったため、本件土地上の本件建物について、商事留置権を行使する旨を告げた。

(六)  原告は、破産会社に対し、平成四年二月六日、右残代金六億三四四八万円について、六億一二八五万円に減額した。

(七)  本件土地及び本件建物については、いずれも被告が管財人として所有しているが、原告が本件土地上の本件建物を占有している。

(八)  原告は、東京地方裁判所に対し、平成五年一月一九日、本件土地及び本件建物について、別紙商事留置権目録記載の債権及び本件留置権を届け出たところ、被告が管財人として本件留置権の成立を争っているが、担保権の実行として留置権による競売の申立てを予定している(民事執行法一九五条、一八一条)。

以上の事実が認められ、これに反する的確な証拠はない。

3  してみると、原告の権利についての現存の危険不安を除去し、本件留置権の確保のためには、本件訴訟の確認の利益を認めるのが相当である。

なお、一般に留置権者の留置物の占有は留置権の成立及び存続要件であり、本件訴訟による本件留置権の確認が口頭弁論終結時を基準日とするものであって、将来の競売の申立て時点を基準日とするものではないが、これは訴訟法上当然の理であって、これをもって被告主張のごとく確認の利益を否定することはできない。

二  本件留置権の成立範囲について

1  前記一2認定の事実によれば、別紙商事留置権目録記載の債権の担保のために、本件土地上の本件建物に対し商事留置権が成立するものと解するのが相当である。

しかしながら、前示のとおり本件土地及び本件建物が破産会社に帰属し、現在これを被告において管財人として所有していることは当事者間に争いはないところ、さらに前掲証拠及び弁論の全趣旨によると、原告は、破産会社から本件建物を建築するため本件土地の使用を許されたこと、その後原告は、本件建物を完成させたが、破産会社に対し、本件契約に基づく残代金の支払がないため、本件建物の引き渡しを拒否したものの、本件建物の所有権保存登記手続を承諾したこと、破産会社は、平成五年九月三〇日、右保存登記手続を完了したこと、原告の主張する別紙商事留置権目録記載の債権は、本件建物の建築に関する本件契約によって生じたものであることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

してみれば、本件建物の所有権が被告にある以上は、その敷地たる本件土地部分を含め本件土地の占有者は被告であるところ、原告は、本件契約に付随して本件土地の利用が認められたにすぎず、本件土地に対する独立の占有はないから、本件土地を本件留置権の対象とすることはできないものと解するのが相当である。

したがって、原告は、本件留置権に基づき、本件土地についてまで競売の申立てをすることはできないものというべきである。ただ、原告は、留置権の行使により本件建物の引き渡しを拒否できる反射作用として、本件建物を留置するために必要不可欠なその敷地たる本件土地部分の明渡しを拒否することができるものと解するのが相当である。

2  結局、その余の点について判断するまでもなく、原告は、本件建物について別紙商事留置権目録記載の留置権を有するにとどまるものといわなければならない。

三  結論

よって、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む)の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九四条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官河野清孝)

別紙物件目録〈省略〉

別紙商事留置権目録

一、商法第五二一条に基づく商人間の留置権

二、債権者 原告 債務者 破産会社株式会社○○工務店

三、商行為

平成二年一〇月三一日に締結された破産会社を発注者、請負者を原告とする左記工事請負契約

1、工事場所 別紙物件目録一、二記載の土地

2、工事の目的 別紙物件目録三記載の建物の新築

3、工期 着手 平成二年一一月二日

完成 平成四年一月二一日

(当初平成三年一二月末日であったのを合意延期)

4、請負代金 七七一、四七〇、〇〇〇円

(当初七九三、一〇〇、〇〇〇円であったが二一、六三〇、〇〇〇円を減額)

5、代金の支払

第一回(平成二年一一月)

七九、三一〇、〇〇〇円

第二回(平成三年二月)

七九、三一〇、〇〇〇円

以上約束通り支払済 以後全く支払っていない

第三回(上棟時)

七九、三一〇、〇〇〇円

第四回(上棟三ヵ月後)

七九、三一〇、〇〇〇円

第五回(竣工引渡時)

四五四、二三〇、〇〇〇円

(当初四七五、八六〇、〇〇〇円であったが前記4の減額)

四、留置権の行使

平成四年一月二一日、三の3のように建物工事が完成したが、破産会社は5記載のように六一二、八五〇、〇〇〇円の代金が支払えないので、同日原告は留置権を行使した。

尚、本件請負契約は四会連合協定に基づく工事請負契約約款によっているが、同約款第二六条2により支払いを完了しない場合、遅滞日数一日につき支払遅滞額の一〇〇〇分の一の違約金を請求出来ることになっているので、現在商事留置権行使の原因となっている未払額は

元本 六一二、八五〇、〇〇〇円と

遅延損害金六一二、八五〇、〇〇〇円×一〇〇〇分の一×平成四年一月二二日から完済済までの日数となる。

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